他人に契約を任せるということ
第15回。今日から代理に入ります。ここは権利関係の中でも宅建の実務と直結する分野で、業法でやった媒介の話とも地続きです。2回に分けて、今日は正常な代理、次回は権限のない代理を扱います。
1. 三人いる、というのが出発点
代理の基本形はこうです。本人Aが、代理人Bに「土地を売ってきて」と頼む。BはAの代理人として相手方Cと売買契約を結ぶ。契約の効果はAに直接生じる(民法99条1項)。
契約したのはBやのに、売主はAになるってことか。
そうです。ここが代理の核心で、契約した人と効果を受ける人がずれる。この「ずれ」を正当化するために条件がついています。
勝手に他人の名前で契約されたらたまらんもんな。
そのとおりで、効果がAに飛ぶには3つが要ります。
- 代理権があること
- 顕名(Aの代理人であることを示すこと)
- 代理人が実際に意思表示をすること(代理行為)
2番の顕名って、要は「Aの代理で来ました」って名乗ることか。
名乗ること、そして契約書に「A代理人B」と書くことです。宅建の実務で言えば、委任状を持って出てくる形ですね。
2. 名乗り忘れると、自分の契約になる
では顕名を落としたらどうなるか。代理人が自分のためにしたものとみなされます(100条本文)。
Bが自分で買ったことになってまうんか。こわ。
相手方Cの立場で考えるとわかります。Cは目の前のBと契約したつもりでいる。後から「実は本人はAでした、売主はAです」と言われても困る。だから表示されたとおりに扱う。
ただし例外があって、相手方Cが「Bは代理人だな」と知っていた、または知ることができたときは、Aに効果が生じます(100条ただし書)。
Cが事情をわかってたんなら、守ってやる必要ないってことか。さっきの心裡留保と同じ形やな。
気づきましたね。**「相手方が悪意または有過失なら、保護しない」**というのは民法の頻出パターンです。前回の表と同じ構造が、場所を変えて出てきます。
3. 代理人は、しっかりした人でなくていい
ここは直感に反するところです。代理人は行為能力者であることを要しません(102条本文)。
え、未成年でも代理人になれるん?
なれます。しかもその代理行為を、行為能力の制限を理由に取り消すことはできません。
なんでや。第12回で「制限行為能力者は守らなアカン」ってやったばっかりやん。
制限行為能力者を守る制度の目的は、その人自身の財産が減らないようにすることです。ところが代理では、契約の効果は全部本人Aに飛ぶ。代理人Bの財産は1円も減りません。
あー、Bは損せえへんから、守る必要がないんか。
そのとおりです。そしてそんな人を代理人に選んだのはA自身。選任の結果はAが引き受けるべきだ、という理屈でもあります。
誰を選ぶかは自己責任と。
ただし例外が1つ。制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せます(102条ただし書)。
そら、そもそも「選んだ」わけちゃうもんな。法定代理は本人が選んでへんのやから。
いい整理です。任意代理は本人が選んだ、法定代理は法律が決めた──この差は復代理のところでもう一度効いてきます。
4. 勘違いしていたのは誰か
次。代理人が詐欺にあった、あるいは事情を知っていた──こういう判断は誰を基準にするかという問題です。
契約したのはBやから、B基準ちゃうの。
正解です。意思表示の瑕疵や善意悪意は、原則として代理人について判断します(101条1項)。だまされたのがBなら、Aがどれだけ真実を知っていても、契約はBの詐欺で取り消せます。
実際に判断した人を見るってことやな。
ただし逆パターンに注意。Aが特定の行為を委託した場合、Aが知っていた事情について、「代理人Bは知らなかった」と主張することはできません(101条3項)。
つまり、Aが事情を知っとって、それを隠してBに行かせるのはアカンと。
そうです。知っている本人が、何も知らない代理人を盾にして得をするのを封じる条文です。宅建の場面なら、告知すべき事情を知っている売主が、事情を知らない代理人を立てて売る、というような形。
それ実務でありそうやな。業法の告知義務の話とも重なるわ。
5. 一人二役は、原則アウト
代理にはやってはいけない形が決まっています。3つ。
①自己契約(108条1項前段)──代理人Bが、相手方として自分と契約する。Aの土地を、A代理人Bとして、買主Bに売る。
自分で自分と契約するんか。そら値段いくらでも決められるやん。
②双方代理(108条1項後段)──売主Aの代理人であり、同時に買主Cの代理人でもある。
これ、不動産屋がやりそうやな。両方から手数料もらう形やろ。
鋭いところに触れました。媒介と代理は別物です。業法でやった媒介(仲介)は、当事者の意思決定そのものは本人がやる。ここで禁じられているのは契約の意思表示を両方の立場で代理してしまうこと。同じ業者が売主・買主の双方から媒介の依頼を受けること自体は、業法の世界の話として別に規律されています。
なるほど、線引きが違うんやな。
③代理権の濫用(107条)──権限の範囲内ではあるが、自分や第三者の利益を図る目的でやった場合。
権限はあるけど、腹の中が真っ黒ってことか。
これら3つは、無権代理とみなされます。無効ではなく無権代理──つまり本人が追認すれば有効にできる。
本人が「それでええよ」と言うんやったら、文句を言う人がおらんもんな。
そういうことです。①②には例外もあります。債務の履行(すでに決まっている内容を実行するだけ・値段の操作の余地がない)と、本人があらかじめ許諾したとき。登記申請を司法書士が双方から受けるのは前者の発想です。
なお③の濫用は、相手方がその目的を知っていた、または知ることができたときに無権代理とみなされます。相手方が何も知らなければ、契約は有効のまま。
また「相手方が悪意・有過失なら保護せえへん」やな。今日3回目やで。
数えていましたか。この型を1つ覚えると、条文を3つ覚えたのと同じ効果があります。
6. 代理人が、さらに人を立てる(復代理)
最後。代理人Bが忙しくて、さらに別の人Dに任せる。これが復代理です。
ここで任意代理と法定代理の差が出ます。
| 復代理人を選任できる場面 | 責任 | |
|---|---|---|
| 任意代理人 | 本人の許諾があるとき、またはやむを得ない事由があるとき(104条) | 原則として本人との委任契約の債務不履行の問題として処理 |
| 法定代理人 | いつでも自己の責任で選任できる(105条) | 原則として全責任。やむを得ない事由があるときは選任・監督の責任に軽減 |
任意代理は勝手に人を替えられへんのか。
本人はBを信頼して頼んだのであって、見ず知らずのDに任されては困る。信頼して選んだという前提があるからです。
逆に法定代理は、本人が選んだわけちゃうから縛りがゆるいと。さっきの102条ただし書と同じ考え方やな。
つながりましたね。ここは**「任意=本人が選んだから縛りがきつい/法定=本人が選んでいないから緩い代わりに責任が重い」**という一組で覚えるところです。
選んだ責任か、選んでない責任か。
あと2点だけ。復代理人DはBの代理人ではなく、Aの代理人です。効果はAに直接飛ぶ。そして復代理人を選任しても、Bの代理権は消えません。
引き継ぎやなくて、増えるだけなんやな。
そのとおりです。最後に代理権の消滅事由を並べておきます。本人の死亡、代理人の死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判(111条)。任意代理は委任契約が終わることでも終了するので、本人の破産でも終わります。
本人が破産したら代理人は続けられへんけど、代理人が破産しても本人は生きとる、と。……逆はどうなん、本人が後見開始になったら?
いい質問です。111条が挙げているのは代理人側の後見開始で、本人側は挙がっていません。表を丸暗記するより、「誰が消えたら成り立たなくなるか」で考えるほうが事故が少ないです。
今日の持ち帰り
代理の効果が本人に飛ぶ条件=①代理権 ②顕名 ③代理行為。 顕名を欠くと代理人自身の契約になる(100条本文)。ただし相手方が悪意・有過失なら本人に効果が生じる。 代理人は行為能力者でなくてよい(102条)。効果は本人に飛び、代理人は損をしないから。ただし制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せる。 善意悪意・意思表示の瑕疵は代理人を基準に判断(101条1項)。ただし本人が知っていた事情について代理人の不知を主張することはできない。 自己契約・双方代理・代理権の濫用は無権代理とみなされる(108条・107条)。本人の追認で有効にできる。 復代理:任意代理人は本人の許諾かやむを得ない事由があるときだけ選任できる。法定代理人はいつでも自己の責任で選任できる。
締めの3問です。
こい。
第1問。「未成年者が代理人としてした法律行為は、行為能力の制限を理由として取り消すことができる」。
×。代理人は行為能力者でなくてええ。効果は本人に飛ぶから未成年者本人は損せえへんし、そんな奴を選んだんは本人やもんな。
第2問。「代理人が相手方に対してした意思表示について、詐欺があったかどうかは本人を基準として判断する」。
×。代理人基準や。実際に契約したんは代理人やから。
第3問。「任意代理人は、本人の許諾がなくても、いつでも自己の責任で復代理人を選任することができる」。
×。それは法定代理人のほうや。任意代理は本人の許諾かやむを得ん事情が要る。……本人がその人を信頼して選んだんやからな。
理由まで付けられていますね。次回は第16回、「権限のない代理人がやった契約」──無権代理と表見代理です。今日の正常な代理が崩れたときに、誰がどう救われるのか。宅建で毎年のように顔を出すところです。
委任状が偽物やった、みたいな話やろ。それは怖いな。
この連載は、受験生Rayと伴走AI「クロ」の学習記録です。僕は宅建の専門家ではありません。学習には必ず最新年度のテキストと一次ソースを確認してください。間違いに気づいたら、直したことも含めて次の回で書きます。