勘違いと、ウソの契約
第14回。……また空きました。8/20から今日8/27まで、第14回から第19回までの6本が止まっていました。理由は前回と同じで、この連載を自動で回す配線がまだ無く、僕が毎朝手で起動する運用のままだからです。今日この6本を一気に出します。そして今日は、その配線そのものにも手を入れています。
テーマは予告どおり、意思表示の残り3パターン。だまされてもいない、脅されてもいないのに、意思表示がおかしいという場合の話です。
1. 「本気じゃなかった」は通るのか(心裡留保)
まず一番わかりやすいところから。自分で嘘だとわかっていて意思表示をした場合です。これを心裡留保といいます。
心裡留保。読み方すら怪しいわ。しんりりゅうほ、でええんか。
それで合っています。「心の裡(うち)に留保している」=本心を隠している、という字面です。典型例は冗談。「この家、100万でええわ」と冗談で言って、相手が本気にした。
それ、契約成立すんの?
原則は有効です(民法93条1項本文)。
えっ、冗談やのに?
冗談を言った本人と、それを信じた相手方。どちらを守るかという話です。嘘をついたのは本人の側なので、信じた相手を守る。自分で招いた事態なんだから責任を取れ、ということです。
前回の「落ち度」の話がそのまま来とるな。
そうです。ただし例外があります。相手方が「本気じゃないな」と知っていた(悪意)か、注意すれば気づけた(有過失)ときは無効(93条1項ただし書)。
相手も冗談やとわかって乗っかってたなら、守る必要ないわな。
そのとおりです。そして──ここから毎回同じ形が出てきます。この無効は、善意の第三者には対抗できない(93条2項)。
また第三者か。
この連載、権利関係に入ってからずっと同じ骨格です。当事者どうしの結論を出す → 第三者が現れたらどうなるか。宅建の権利関係は、ほぼこの2段構えでできています。
2. 二人でグルになった契約(虚偽表示)
次。相手方と通じ合って嘘の契約をした場合。これが虚偽表示です(94条1項)。
グルってことか。何のためにそんなことすんの。
定番は財産隠しです。借金で土地を差し押さえられそうなAが、友人Bに頼んで「Bに売ったことにする」。登記もBに移す。実際にはお金も動いていないし、売る気もない。
あー、差押えから逃げるためにな。
この契約は無効です。当事者どちらも本気じゃないので、守るべき信頼がない。ここまでは素直です。
問題は例によって、Bが本当に第三者Cに売ってしまったとき。
名義がBになっとるから、Cは「Bのもんや」と思って買うわな。
そこで94条2項。虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できない。Cが事情を知らなければ、Cの勝ち。Aは土地を失います。
前回の詐欺と同じ結論やな。
結論は同じですが、条件が一段ゆるいです。ここが差分。
詐欺の取消し → 善意かつ無過失の第三者に対抗できない(96条3項) 虚偽表示の無効 → 善意の第三者に対抗できない(94条2項)
虚偽表示のほうは、過失があってもCが勝てるんか。
勝てます。理由はAの落ち度の大きさです。詐欺の被害者Aは、だまされたとはいえ被害者。でも虚偽表示のAは、自分から進んで嘘の外観を作った張本人。落ち度のレベルが違う。だから第三者側の要求水準を下げて、より広く第三者を守る。
前回の「かわいそう度ランキング」の続きやな。虚偽表示のAは自業自得やから、一番下ってことか。
身も蓋もないですが、その理解で正しいです。
3. 勘違いで契約してしまった(錯誤)
3つ目、錯誤。嘘をつく意図すらなく、単純に勘違いしていた場合です。ここは2020年の民法改正で結論が変わったところなので、古い教材を見ると間違えます。
何が変わったん。
昔は錯誤の効果が無効でした。今は取消しです(95条1項)。
無効と取消し、なんか違うんか。
大きく違います。無効は最初から効力が無いので誰でも主張できるし、時間で消えない。取消しは、取り消すと言うまでは一応有効で、取り消せる人が決まっていて、期間制限もある。勘違いした本人が「これでいい」と思うなら契約を維持できるほうが都合がいい、という発想の変更です。
本人に選ばせるってことか。
そうです。そして錯誤で取り消すにはハードルが3つあります。
1つ目=重要な錯誤であること。 その勘違いがなければ普通は契約しなかった、と言えるレベル(95条1項)。「駅から徒歩12分を10分だと思っていた」程度では通りません。
しょうもない勘違いでいちいち取り消されたら、相手がたまらんもんな。
2つ目=動機の錯誤には追加条件がある。 錯誤には2種類あって、
- 表示の錯誤:言い間違い・書き間違い。1,000万と書くつもりが100万と書いた
- 動機の錯誤:中身は間違っていないが、そう決めた理由のほうが勘違い。「近くに駅ができると思って買った」が、実は計画がなかった
後者、めっちゃありそうやな。
多いです。そして動機は本人の頭の中にあるので、相手からは見えない。だから民法は条件をつけました。その事情が契約の基礎とされていることが表示されていたときに限り、取り消せる(95条2項)。
「駅ができるから買うんです」って言うとかなアカンってことか。
そうです。黙って心の中で期待していただけなら、相手は知りようがない。言っていれば取り消せる、黙っていたら取り消せない。
シビアやけど、まあフェアではあるな。
3つ目=表意者に重過失があると取り消せない(95条3項)。ちょっと注意すれば気づけたレベルの不注意なら、自分の責任です。
これも落ち度の話やな。
ただし重過失があっても取り消せる例外が2つ。①相手方が勘違いを知っていた、または重過失で知らなかったとき ②相手方も同じ勘違いをしていたとき(共通錯誤)。
①は、相手が「こいつ勘違いしとるな」とわかってて黙ってたパターンか。そら守らんでええわ。
そして第三者との関係。錯誤の取消しは、善意無過失の第三者に対抗できない(95条4項)。詐欺と同じ扱いです。
4. 6パターンを1枚に並べる
前回と今回で、意思表示のパターンが出そろいました。制限行為能力も含めて並べます。この表がP2前半のいちばん重い持ち帰りです。
| 原因 | 効果 | 第三者に対抗できるか |
|---|---|---|
| 制限行為能力 | 取消し | できる(第三者に勝てる) |
| 強迫 | 取消し | できる(第三者に勝てる) |
| 詐欺 | 取消し | 善意無過失の第三者にはできない |
| 錯誤 | 取消し | 善意無過失の第三者にはできない |
| 心裡留保 | 原則有効・例外無効 | 善意の第三者にはできない |
| 虚偽表示 | 無効 | 善意の第三者にはできない |
上にいくほど本人が守られて、下にいくほど第三者が守られるんやな。
そして並び順は本人の落ち度の小さい順です。落ち度ゼロ(制限行為能力・強迫)は無条件で勝つ。うっかり(詐欺・錯誤)は、相手が善意無過失なら負ける。自分で嘘の外観を作った(心裡留保・虚偽表示)は、相手が善意でありさえすれば負ける。
丸暗記せんでも、落ち度で並べたら思い出せるな。
それが今日の狙いです。6行を覚えるのではなく、1本の軸で並べ替えられるようにしておく。試験では表の一部を変えて出してくるので、丸暗記だと1マスずれた瞬間に全部崩れます。
5. 嘘の名義が、後で効いてくる
最後に、虚偽表示の応用を1つだけ。94条2項には、条文の場面そのものではないのに同じ理屈を借りてくる使い方があります。
たとえば、AがまったくあずかりしないところでB名義の登記ができてしまい、Aがそれを知りながら長期間放置していたような場合。厳密には「通じ合った虚偽表示」ではありませんが、嘘の外観を作った(あるいは放置して黙認した)Aと、それを信じた第三者という構図は同じです。判例はこういう場面で94条2項の考え方を借りて、第三者を保護することがあります。
自分でウソの見た目を作ったんやったら、条文の形が違っても同じ扱いにするってことか。
そうです。宅建で深入りする必要はありませんが、「外観を作った側が責任を取る」という発想は民法の背骨なので、頭の隅に置いておくと後の登記の回で効きます。
今日の持ち帰り
心裡留保(冗談)は原則有効。相手が悪意・有過失なら無効。無効は善意の第三者に対抗できない。 虚偽表示(グル)は無効。ただし善意の第三者に対抗できない。無過失は要らない。 錯誤は取消し(2020年改正で無効から変更)。①重要な錯誤②動機の錯誤は表示されていたとき限り③表意者に重過失があると原則取消し不可。 錯誤の取消しは善意無過失の第三者に対抗できない。 第三者保護の強さは本人の落ち度の順に並ぶ。制限行為能力・強迫 > 詐欺・錯誤 > 心裡留保・虚偽表示。
締めの3問です。
こい。
第1問。「AがBと通じて土地の売買を仮装し、B名義の登記がされた。Bがこれを善意のCに売却した場合、AはCに対して虚偽表示の無効を主張できる」。
×。虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できへん。Cは善意やから勝ち。……しかも無過失は要らんかったな。
そこまで言えれば十分です。第2問。「錯誤による意思表示は無効であり、表意者に重大な過失があっても無効を主張することができる」。
×。2つ間違いやな。まず無効やなくて取消し。そんで重過失があったら原則取り消せへん。
2箇所とも拾えました。第3問。「動機の錯誤の場合、その動機が法律行為の基礎とされていることが表示されていなくても、重要な錯誤であれば取り消すことができる」。
×。動機は表示されてなアカン。黙って心の中で思っとっただけやったら、相手が気の毒やもんな。
3問とも取れました。次回は第15回、「他人に契約を任せるということ」──代理に入ります。不動産取引は代理と媒介だらけなので、業法でやった話とつながり始めます。
やっと自分の商売の話に戻ってくるんやな。
この連載は、受験生Rayと伴走AI「クロ」の学習記録です。僕は宅建の専門家ではありません。学習には必ず最新年度のテキストと一次ソースを確認してください。間違いに気づいたら、直したことも含めて次の回で書きます。