時間が権利を作り、時間が権利を消す
第17回。今日は時効です。時間が経つだけで権利が生まれ、時間が経つだけで権利が消える。理屈で殴られると納得しにくい制度なので、まず「なぜこんなものがあるのか」から入ります。
1. 泥棒が得をする制度に見える
先に言うとくけど、他人の土地を長いこと使ってたら自分のもんになるって、感覚的におかしいやろ。
多くの人がそこで詰まります。取得時効(民法162条)はこういう制度です。
20年間、所有の意思をもって、平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 占有の開始時に善意かつ無過失であれば、10年でよい。
20年か10年。……で、なんでそんな制度があんの。
理由は3つあると言われます。
1つ目=長く続いた事実状態を尊重する。 20年その土地を使い、税金を払い、家を建てて暮らしてきた。周囲もその人の土地だと思っている。ある日突然ひっくり返ると、その人だけでなく、その人と取引した全員が困る。
建物建てて、担保に入れて、それで金借りてる人もおるかもしれんもんな。
2つ目=証拠がなくなる。 50年前に正当に買っていたとしても、契約書が残っていないことは普通にあります。「証明できないから負ける」を放置すると、本当は正しい人が負ける。
あー、逆やな。泥棒を助ける制度やなくて、証明できひん正直者を助ける制度でもあると。
3つ目=権利の上に眠る者は保護しない。 20年も放置していた本当の所有者にも落ち度がある、という発想です。
……落ち度。今日も出るんかい。
この連載の背骨です。
2. 「所有の意思」がないと始まらない
条文の中で一番の関門が所有の意思です。自分のものとして持っているという占有でなければならない。専門用語では自主占有といいます。
逆に、所有の意思がない占有って何。
借りている場合です。賃借人は「これは大家のものだ」とわかったうえで住んでいる。何年住んでも所有の意思がないので、何十年住んでも時効取得しません。
そらそうやな。50年住んだら借家がもらえる、はさすがにおかしいわ。
この点は宅建の頻出ポイントです。**「賃借人は時効取得しない」**は1本で覚えてください。
所有の意思があるかどうかって、本人の気持ちの問題? 「俺のもんやと思ってました」って言うたもん勝ちにならんの。
なりません。占有を始めた原因(権原)の性質によって客観的に決まります。買ったつもりで占有を始めたなら所有の意思あり、借りて始めたなら無し。内心の思い込みでは変わらない。
途中から「やっぱ俺のもんや」と思い直してもアカンのやな。
原則としてはそうです。
残りの要件も見ておきます。平穏・公然は、暴力で奪ったのでなく、隠してもいない、ということ。善意無過失は「占有の開始時」に判定します。
開始時だけ? 途中で「あ、これ他人の土地やった」と気づいたら?
**10年のままです。**開始時に善意無過失なら、その後に気づいても期間は延びません。
そこ、ひっかけで出そうやな。
3. 占有はバトンタッチできる
もう1つ。占有は引き継げます(187条)。父が15年占有した土地を相続した息子が5年占有した、というような場合。
合計20年でいけるんか。
選べます。①自分の占有だけを主張する ②前の人の占有も合わせて主張する。どちらでもいい。
そら合わせたほうが得やん。何で選ばせんの。
合わせるときは、前の人の占有の瑕疵も引き継ぐからです。父が悪意で占有を始めていたなら、合算すると「悪意で始まった占有」になって20年必要。息子自身が善意無過失で始めたなら、自分の占有だけを主張して10年を狙うほうが早いこともある。
あー、いいとこ取りはできひんのか。期間だけ借りて、きれいな出発点は自分のを使う、みたいなことは。
できません。セットで引き継ぐ。ここは計算問題で出るので、「合算するなら瑕疵も一緒」と覚えてください。
4. 黙っていると、時効は効かない
制度としてもう1つ大事なのが援用です(145条)。時効は期間が経てば自動的に効果が生じるわけではありません。
え、20年経ったら自動で自分のもんになるんちゃうんか。
なりません。「時効によって取得します」と主張して初めて効果が生じる。これを援用といいます。
なんで自動にせえへんの。
本人が望まないかもしれないからです。時効で他人の物を取ることを潔しとしない人もいる。借金の消滅時効も同じで、「払える。払いたい」という人に、法律が勝手に「もう払わなくていい」と決めるのは余計なお世話です。
あー、選ばせるんやな。第14回の錯誤で「無効やなくて取消しにした」のと同じ発想か。
よく気づきました。本人に選択権を残すという方向は、民法全体の流れです。
関連して2つ。時効の効力は起算日にさかのぼります(144条)。20年前から自分の物だったことになる。そして時効の利益は、あらかじめ放棄できません(146条)。
事前放棄がアカンのはなんで。
金を貸すときに「時効は主張しません」と一筆書かせるのが常態化したら、制度が空文になるからです。完成した後に放棄するのは自由。
5. 時計を止める・巻き戻す
時効の進行に手を加える制度があります。ここは2020年の民法改正で用語が変わったところなので、古い教材だと言葉が合いません。
| 改正前 | 改正後 | 意味 |
|---|---|---|
| 中断 | 更新 | それまでの期間がゼロに戻る。振り出し |
| 停止 | 完成猶予 | 時効の完成が先延ばしになる。期間はリセットされない |
更新のほうが強烈やな。20年経っとっても0に戻ると。
主なものを挙げます。裁判上の請求(147条)は完成猶予、そして確定判決で権利が確定すれば更新。承認(152条)は、それだけで更新。
承認って?
借金なら「返します」と認めること。一部を払うのも承認にあたります。
あー、ちょっとだけ返したら、そこからまた振り出しに戻るんか。……これ、借りとる側からしたら罠やな。
実務ではまさにそこが争点になります。土地の話なら、占有者が「ここはあなたの土地ですよね」と認めたら承認です。
そして催告(150条)。内容証明で「払え」と送るやつです。これは6か月の完成猶予だけ。
6か月延びるだけか。手紙だけでは足りひんのやな。
そのとおりで、催告で猶予を得ているあいだに訴訟を起こすのが実務の型です。催告を繰り返しても効果は重なりません。
6. 使わない権利は消える(消滅時効)
後半は逆向きの時効です。消滅時効(166条1項)。債権は次のどちらか早いほうで消えます。
①権利を行使できることを知った時から5年 ②権利を行使できる時から10年
2つあるんか。ややこしいな。
①が主観、②が客観です。普通の取引では、支払期日は当事者が知っているので5年で消えるのが通常。②の10年が効くのは、権利があること自体を知り得なかった特殊な場合です。
実質5年と思っといたらええんか。
宅建レベルではその理解で十分です。ただし人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は20年(167条)という延長があります。
そして所有権は消滅時効にかかりません。
使ってへん土地でも、持っとる権利は消えへんのか。
消えません。ただし他人に時効取得されることはある。
……あ、そういうことか。権利が勝手に消えるんやなくて、誰かが取っていくんやな。
そこが今日いちばんきれいな整理です。所有権は時間では消えない。人によって取られる。
7. 明日の登記の話への橋
最後に1つだけ、次回の予告を兼ねた論点を置きます。時効取得した人と、第三者の関係です。
Aの土地をBが時効取得した。ところがAは途中でCに売っていた。BとC、どちらが勝つか。
……また第三者かい。
判例の結論は時効完成の前か後かで割れます。
- 時効完成「前」に現れたC → Bは登記なしでCに対抗できる
- 時効完成「後」に現れたC → Bは登記がないとCに勝てない
完成前と後で逆になるんか。理由は?
完成前のCは、時効が完成した時点での所有者本人と同じ立場に立ちます。当事者どうしの関係なので登記は要らない。一方、完成後のCは、「Aから権利を得た人」と「Aから時効で権利を得た人」が並ぶ形になる。二重譲渡と同じ構図です。
あー、第13回の「取消し前と取消し後」と同じ形やん。
まったく同じ形です。そして「登記の先後で決まる」という部分の正体を明日やります。
これ、パターン化できるんちゃうか。
できます。明日それを1枚にします。
今日の持ち帰り
取得時効=所有の意思をもって平穏公然と20年占有。開始時に善意無過失なら10年(162条)。善意無過失の判定は開始時のみ。 賃借人は所有の意思がないので時効取得しない。 占有は承継できるが、合算するなら前主の瑕疵も引き継ぐ(187条)。 時効は援用して初めて効果が生じる(145条)。効力は起算日にさかのぼる(144条)。事前放棄は不可(146条)。 2020年改正で中断→更新(期間リセット)/停止→完成猶予(先延ばし)。承認は更新、催告は6か月の完成猶予。 債権は知った時から5年/行使できる時から10年で消滅。所有権は消滅時効にかからない(ただし時効取得はされうる)。
締めの3問。
こい。
第1問。「賃借人として建物に20年間住み続けた者は、平穏かつ公然と占有していれば、その建物を時効取得することができる」。
×。賃借人には所有の意思がない。何年住んでも借りもんは借りもんや。
第2問。「占有開始時は善意無過失であったが、5年後に他人の土地であることを知った場合、時効取得に必要な期間は20年となる」。
×。善意無過失は開始時だけ見る。途中で気づいても10年のままや。
第3問。「債務者が債務の一部を弁済した場合、時効は更新される」。
○。一部でも払ったら承認になって、振り出しに戻る。……借りとる側からしたら怖い話やけどな。
3問とも取れました。次回は第18回、「登記がないと、誰に負けるのか」──物権変動と対抗要件。今日の宿題(時効完成の前と後)と、第13回の宿題(取消しの前と後)を、まとめて回収します。
伏線が2つ溜まっとるな。
この連載は、受験生Rayと伴走AI「クロ」の学習記録です。僕は宅建の専門家ではありません。学習には必ず最新年度のテキストと一次ソースを確認してください。間違いに気づいたら、直したことも含めて次の回で書きます。