契約を取り消せる人たち
第12回。今日からP2権利関係、15本です。舞台は宅建業法から民法に変わります。最初に戦い方の話をしてから、初回のテーマ「制限行為能力者」に入ります。
1. P2の戦い方 ── 満点を最初から捨てる
権利関係は50問中14問。ただ、業法と同じ戦い方をしてはいけません。
- 業法20問は、条文と数字の暗記で満点が狙える科目
- 権利関係14問は、民法の理解を聞く科目で、判例まで追うと底なし
なのでP2の方針を先に固定します。14問中7〜9問取れれば勝ち。頻出論点だけやる。深追いしない。
半分ちょいでええんか。気は楽やけど、ほんまにそれで受かるん?
合格ラインは50問中37点前後。業法18・権利8・法令税その他11、が僕らの配点設計です(roadmapに書いたとおり)。権利関係で満点を取りにいくと勉強時間が全部溶けます。「これは頻出か?」と毎回問いながら進むのがP2のルールです。
了解や。ほんで初回が「取り消せる人たち」と。
2. なぜ契約を取り消せる人がいるのか
民法の大原則は契約は守らなければならないです。ただしそれは、対等な判断力を前提にした話。判断力が十分でない人がした契約まで「約束は約束」で縛ると、食い物にされる人が出ます。
そこで民法は、判断力が不十分な人を4類型に分けて、した契約を後から取り消せる権利を与えました。それが制限行為能力者です。
業法の8種制限と同じ思想やな。弱い側に取消しの武器を持たせる。
いい接続です。違いは、業法が「素人 vs プロ」という立場で線を引いたのに対し、民法は本人の判断能力で線を引くこと。4類型はこうです。
| 類型 | 判断能力 | 保護者 |
|---|---|---|
| 未成年者(18歳未満) | 未成熟 | 親権者などの法定代理人 |
| 成年被後見人 | 欠く常況(ほぼ常に判断できない) | 成年後見人 |
| 被保佐人 | 著しく不十分 | 保佐人 |
| 被補助人 | 不十分 | 補助人 |
成年被後見人・被保佐人・被補助人は、家庭裁判所の審判で決まります。認知症などで判断能力が衰えた場合が典型で、重い順にこの並びです。
3. 未成年者 ── 原則取消し、例外3つ
未成年者が法定代理人の同意なしにした契約は、取り消せる。これが原則。18歳成年になったので、17歳の高校生が勝手に車を買ったら親は取り消せます。
試験で出るのは例外──同意なしでも取り消せない3つです。
- 単に権利を得、または義務を免れる行為(タダでもらう、借金を免除してもらう)
- 処分を許された財産の処分(お小遣いでの買い物)
- 許可された営業に関する行為(親が営業を許可したら、その範囲ではプロ扱い)
うちの昊が小遣いでカード買うんは取り消されへんと。まあそらそうやな、コンビニがいちいち親の同意確認しとったら商売にならん。
損する余地がない行為と、あらかじめ親が手放した範囲──理屈は「本人が害される危険がないなら取消し不要」です。
4. 成年被後見人 ── 同意があっても取り消せる
ここが今日いちばんの出題ポイントです。成年被後見人がした契約は、成年後見人の同意を得ていても取り消せます。
ん? 同意もろてしたのに取り消せるん? 未成年と違うんか。
違うんです。未成年者は「同意を得てした行為は取り消せない」。でも成年被後見人は判断能力を欠く常況──事前に同意を与えても、その同意どおりに行動できる保証がない。だから同意という仕組み自体が機能しない。保護の方法は同意ではなく、**成年後見人が代わりに契約する(代理)**です。
同意は無意味やから、代理で回す。なるほどな。
例外は1つだけ。日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消せません。スーパーで食材を買う行為まで取り消せると、本人が日常生活を送れなくなるので。
そして不動産に直結する頻出論点。成年後見人が、本人の居住用不動産を売却・賃貸・抵当権設定するには、家庭裁判所の許可が必要です。
後見人でも勝手に家は売られへんのか。
住み慣れた家を失うことは本人への影響が大きすぎるので、代理人にも家裁のチェックが入ります。「居住用」限定である点も含めて、宅建がとても好きな論点です。EVENで不動産をやるなら、実務でも高齢の売主で必ず出会う場面ですよ。
5. 被保佐人 ── 「重要な行為」だけ同意が要る
被保佐人は日常の契約は1人でできます。重要な財産上の行為だけ、保佐人の同意が必要──同意なしでやったら取り消せる。条文(13条1項)のリストから、宅建に出るものを挙げます。
- 借財・保証(金を借りる、保証人になる)
- 不動産その他重要な財産の売買
- 新築・改築・増築・大修繕の契約
- 長期の賃貸借(土地5年超・建物3年超)
- 相続の承認・放棄、遺産分割
不動産まわり、ほぼ全部やん。
宅建の試験範囲と重なるように出来ています(だから出る)。逆に言うと、建物を2年貸すのは「長期」ではないので同意不要。数字の線(土地5年・建物3年)は覚えてください。
被補助人はさらに軽くて、このリストの一部を家裁が個別に指定し、その行為だけ補助人の同意が要る。あと1点だけ──本人以外の請求で補助を開始するには本人の同意が必要。保護が軽い分、本人の意思を尊重する建て付けです。
6. 相手方の守り方 ── 催告と詐術
ここまで本人の保護を見てきましたが、逆側にも問題があります。契約の相手方は、取り消されるかどうか分からない宙ぶらりんに置かれる。そこで相手方には2つの武器があります。
1つ目、催告権。 「取り消すのか、認める(追認する)のか、1か月以上の期間内にはっきりしろ」と迫れる。期間内に返事がなかったらどうなるかが出題ポイントで──
- 能力を回復した本人や保護者(法定代理人・保佐人・補助人)に催告 → 確答なしは追認とみなす
- 被保佐人・被補助人本人に催告 → 確答なしは取消しとみなす
向きが逆になるんか。なんでや。
「返事がない=現状維持」と考えると整理できます。1人で追認を確定できる立場の人が黙っていたら、契約はそのまま生きる方向(追認)。被保佐人本人は1人では追認を確定できない(同意が要る)立場なので、黙っていたら契約は消える方向(取消し)。確答なしのときは、その人が1人でできる側に倒れる。
ちなみに未成年者・成年被後見人の本人への催告は無効です。催告を受け取る能力自体がないとされるので、何も起きません。
2つ目、詐術。 制限行為能力者が「自分は能力者だ」と騙して契約した場合──たとえば身分証を偽造して18歳と偽った──は、取り消せなくなります。保護に値しない者まで守る制度ではないので。
そら騙した側が守られたらおかしいわな。黙っとっただけやったらどうなん?
単なる黙秘は詐術に当たらない、が判例です。ただし他の言動と合わせて相手を誤信させたなら詐術になりうる。「黙っていただけで直ちに詐術」と言い切る肢は×です。
7. 取り消したら、どこまで返すか
取消しの効果は最初から無効。お互いに受け取ったものを返します。ただし制限行為能力者側の返還義務は現存利益──今も残っている利益の範囲でよい。
現存利益て、要は「残っとる分だけ返せばええ」ってことか。
そうです。受け取った100万円をギャンブルで溶かしていたら、返すのは0円でいい。ただし**生活費や借金の返済に充てた分は「現存利益あり」**とされます──どうせ払うはずだった出費が浮いた分、財産は残っているのと同じだから。
浪費はセーフで生活費はアウトって、直感と逆やな。おもろい。
最後に、次回への布石を1本。制限行為能力を理由とする取消しは、善意の第三者にも対抗できます。未成年者Aが親の同意なく土地をBに売り、Bが事情を知らないCに転売していても、Aは取り消してCから土地を取り返せる。
何も知らんCが負けるんか。ちょっとかわいそうやな。
その「かわいそう」が次回のテーマです。詐欺や強迫で契約した人の取消しになると、第三者との勝ち負けのルールが変わります。誰をどこまで守るか──民法の設計思想が一番きれいに見える場所です。
今日の持ち帰り
P2の方針: 14問中7〜9問で勝ち。頻出だけ、深追いしない。 未成年者の例外3つ: 単に権利を得る/義務を免れる・許された小遣い・許された営業。 成年被後見人は同意があっても取消し可(同意は機能しない→代理で保護)。例外は日用品の購入等の日常生活行為だけ。 居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要。 被保佐人は重要行為だけ同意が必要: 借財・保証、不動産の処分、新築改築増築大修繕、長期賃貸借(土地5年・建物3年超)。 催告に確答なし: 保護者・能力回復後の本人→追認擬制/被保佐人・被補助人本人→取消し擬制。未成年者・成年被後見人本人への催告は無効。 詐術を用いたら取り消せない(単なる黙秘は詐術ではない)。 返還は現存利益の範囲(浪費は返さなくてよい・生活費充当は返す)。取消しは善意の第三者にも対抗できる。
では3問。
こい。
第1問。「成年被後見人が、成年後見人の事前の同意を得て土地を売却した場合、その売買契約を取り消すことはできない」。
×や。成年被後見人は同意もろててもアカン。同意どおり動ける保証がないから、同意って仕組み自体が使えへん。日用品以外は取り消せる。
第2問。「成年後見人は、成年被後見人の居住の用に供する建物を売却するには、家庭裁判所の許可を得なければならない」。
○。住んどる家は後見人でも勝手に売られへん。家裁の許可が要る。
第3問。「被保佐人に対して、1か月以上の期間を定めて追認するかどうか催告したが、期間内に確答がなかった場合、その行為は追認したものとみなされる」。
×。被保佐人本人は1人で追認を決められへん立場やから、黙っとったら取消しのほうに倒れる。追認扱いになるんは保佐人とか、1人で決められる側に催告したときや。
3問正解、しかも「1人でできる側に倒れる」の理屈まで使えています。民法は理屈が拾えれば暗記が半分で済む科目です。この調子で。
次は第13回、「だまされた契約と、脅された契約の差」。詐欺と強迫──同じ「取消し」なのに、第三者が絡んだ瞬間に結論が分かれます。
さっきのかわいそうなCの話やな。
そうです。民法で最初に感動できる場所なので、楽しみにしていてください。
この連載は、受験生Rayと伴走AI「クロ」の学習記録です。僕は宅建の専門家ではありません。学習には必ず最新年度のテキストと一次ソースを確認してください。間違いに気づいたら、直したことも含めて次の回で書きます。